日本の高等学校の教科「情報」の内容とその現状

中野由章(千里金蘭大学)

y-nakano@kinran.ac.jp

概要

  • 日本の高等学校で2003年度から始まった教科「情報」は,「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」が3つの柱となっている。現在,日本の4分の3の高校では「情報A」が設置されており,これは「情報活用の実践力」が主軸に据えられている。教科「情報」は,科学技術で発展しようとしている日本の将来のために必須であるが,未履修問題が続出したり,必履修から外そうとする動きが起きたりするなど,否定的な見方も多い。その原因としては,教員養成に無理があったこと,大学側も情報入試に対して消極的であること,教育現場や教育行政に重要性が理解されていないことなど,さまざまなものが重畳している。

キーワード

  • 高校教科「情報」,教員採用,情報入試,情報活用の実践力,情報の科学的な理解,情報社会に参画する態度

高校教科「情報」の成立過程

  • 2003年度から,日本の高等学校の教科に「情報」と「福祉」が新設された。「情報」は普通教科と専門教科に区分され,普通教科「情報」は2単位以上必履修となった。高等学校で「情報」を学んだ学生を大学が受け入れ始めてから今年で3年目になる。この教科の成立過程について概観する。
  • 日本の初等・中等教育における「情報」は,次の3つが柱となっている。
    • 情報活用の実践力
    • 情報の科学的な理解
    • 情報社会に参画する態度
  • 従来,「情報」と言えば,コンピュータ科学を中心とした「情報の科学的な理解」に重きが置かれてきたが,「情報活用の実践力」と「情報社会に参画する態度」も主軸に据えられていることが特筆される。
  • この3本柱が打ち出されたのは,1997年10月に「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議(以下「協力者会議」)」の第1次報告に遡る。この第1次報告においては,「『情報活用の実践力』の育成については,原則として既存の教科等で行い,『情報の科学的な理解』及び『情報社会に参画する態度』については,情報教育に特化した教科・科目,領域等で行う」とされた。すなわち,「情報活用の実践力」については,「総合的な学習の時間」と既存の教科等で育成し,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」については,中学校の「技術・家庭」の情報領域と,高校の教科「情報」で育成しつつ,その一部については,既存の教科等でも扱うことを前提としていた。それと同時に,第1次報告の第3章に「既存教科等における『情報活用の実践力』の育成」という節を設け,「情報教育の目標のうち『情報活用の実践力』については,各教科等のそれぞれの特性に応じて積極的に取り組む必要がある」と述べ,3つの柱の中でも別格の扱いをしている。(1998年8月の協力者会議最終報告においては,「情報教育の目標のうち『情報活用の実践力』については,各教科等のそれぞれの特性に応じて,すべての学校段階を通じて積極的に取り組むことが強く求められる」と第1次報告で提言したと,殊更強調されている。)
  • これを受け,1998年7月の教育課程審議会答申では,普通教科「情報」に,「情報A」「情報B」「情報C」の3科目を置くこととされた。
  • 一方,専門教科「情報」については,理科教育及び産業教育審議会が,1997年10月に「今後の専門高校における教育の在り方等について 中間まとめ」として,「特にソフトウェアに関し,システム全体の設計・構築や管理・運営を担当するなどの高度な情報技術者の育成や新たな産業領域の形成に役立つような人材の育成が重要」であるとし,そのために専門教科「情報」設置が必要であると謳っている。そして,その科目構成として現行の11科目を1998年7月に答申している。

普通教科「情報」の内容

  • 前節で述べたように,当初,高校の普通教科「情報」では,「情報の科学的な理解」と「情報社会に参画する態度」について扱い,「情報活用の実践力」は既存の教科等で行なうこととなっていた。ところが,「情報活用の実践力」については,当時の中心的教育課題であった「『生きる力』の育成」に直接資するとし,協力者会議第1次報告でも別格の扱いとなった。最終的に,教育課程審議会は,「情報A」「情報B」「情報C」の3科目を置くと答申した。その内容は以下の通りである。
  • 「情報A」は,基礎的な技能に重点を置き,情報活用における情報手段の有効性,情報の収集・発信・処理と情報手段の活用,情報手段の発達に伴う生活の変化などで構成される。
  • 「情報B」は,科学的な理解に重点を置き,問題解決におけるコンピュータの活用の方法,コンピュータの仕組みと働き,モデル化とシミュレーション,データベース,情報社会を支える情報技術などで構成される。
  • 「情報C」は,情報社会に参加する望ましい態度に重点を置き,ディジタル表現,情報通信ネットワークとコミュニケーション,情報の収集・発信と自己責任,情報化の進展と社会への影響などで構成される。
  • 実習に配当される時間数について,「情報A」は技能が重視されるため,総授業時数の2分の1以上とし,「情報B」「情報C」は3分の1以上と規定されている。
  • 「情報A」「情報B」「情報C」の何れも,「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3つの柱から構成されるものとし,その中でも特に,「情報A」は「情報活用の実践力」,「情報B」は「情報の科学的な理解」,「情報C」は「情報社会に参画する態度」に重きが置かれた。しかし,実際には2単位を想定して設計されているためにそれほど多くのことを盛り込むことはできず,「情報A」「情報B」「情報C」の共通部分は「空集合」だと揶揄されることすらある。このことと,実習が重視される内容であることが,大学の一般入試で教科「情報」を出題しにくくしているという側面もある。
  • また,「情報A」は,協力者会議第1次報告の段階では想定外の科目であったが,中学校段階までの「情報活用の実践力」育成が不充分であった当時の状況を考えると,「情報A」を設定したのは正しい判断であったと思う。しかし,あくまでも中心的に扱われるべきは「情報B」と「情報C」であり,「情報A」は補助的なものとなるべきであったと筆者は考えている。そのような中,「情報A」「情報B」「情報C」の履修割合を全国的に俯瞰すると図1のようになる。
  • 図1 「情報A/B/C」の履修割合
  • この図から明らかなように,教科「情報」開設初年度の2003年に比べれば,2007年度は「情報B」と「情報C」の割合が増加しているとは言え,本来補助的であるべき「情報A」が圧倒的な割合を占めているのが分かる。しかも,高等教育機関における「情報」の中心である「情報の科学的な理解」を重点的に扱う「情報B」は1割程度しか履修されていない。このことは,「科学技術創造立国」を標榜する日本の前途に暗雲が垂れ込めているものと言っても過言ではあるまい。
  • また,この結果は生徒の興味・関心等が「情報A」に偏向していることを意味している訳ではないことにも留意しなければならない。教育課程審議会答申では「生徒が興味・関心等に応じて選択的に履修できるように,『情報A』『情報B』『情報C』を置く」とされているにもかかわらず,現状ではほとんどの場合,学校側の都合で何れか1科目しか設置されず,生徒に選択の余地が与えられていないのである。

専門教科「情報」の内容

  • 教科「情報」には,普通教科のほかに専門教科も設定されている。専門教科「情報」は,以下の11科目から構成されている。
    • 情報産業と社会:情報産業と社会のかかわりについて,情報化と社会,情報化を支える科学技術などを学ぶ。
    • 情報と表現:情報と表現について,情報活用とメディア,情報活用,情報発信,発表能力などを学ぶ。
    • アルゴリズム:データ構造とアルゴリズムについて,数値計算,データの型とデータの構造,並べ替え,検索,データベースの概要などを学ぶ。
    • 情報システムの開発:情報システムの開発について,情報システムの概要,設計,ソフトウェアテスト,運用保守などを学ぶ。
    • ネットワークシステム:情報通信ネットワークシステムについて,ネットワークの基礎,設計,運用と保守,安全対策などを学ぶ。
    • モデル化とシミュレーション:様々な現象を数理的にとらえ,コンピュータで解析し,視覚化するための知識と技術について,モデル化とその解法 ,現象のモデル化とシミュレーションなどを学ぶ。
    • コンピュータデザイン:コンピュータによるデザインについて,造形表現,造形心理と意味の生成,デザインの基本要素と構成などを学ぶ。
    • 図形と画像の処理:コンピュータによる図形の処理技法や画像の処理技法,立体図形の表現に関する知識や技術について,画像のディジタル化,画像の変換と合成,図形の表現,立体図形による表現などを学ぶ。
    • マルチメディア表現:マルチメディアによる表現活動を通して,マルチメディアによる伝達効果とその特質,作品の構成について,静止画の設計と表現,動画の設計と表現,音・音楽の設計と表現,作品の作成などを学ぶ。
    • 情報実習:システム設計・管理領域やマルチメディア表現領域などの専門分野に関する技術を実際の作業を通して総合的に学ぶ。
    • 課題研究:作品の作成,調査・実験・研究,産業現場等における実習,職業資格の取得などに関する課題を設定し,その課題の解決を図る学習を通して,問題解決の能力や自発的,創造的な学習態度を学ぶ。
  • 以上のように,専門教科「情報」の科目は,基礎的科目,システム開発系科目,マルチメディア系科目に大別できる。尚,システム開発系とマルチメディア系という分類は,中学校「技術・家庭」の「情報とコンピュータ」領域も同様になっている。

教科「情報」の教科書

  • 普通教科「情報」の教科書検定は,2001年度,2003年度,2005年度にそれぞれ行われた。各年度に提出され,合格した教科書は「情報A」「情報B」「情報C」の科目別に見ると,図2の通りである。
  • 図2 科目/年度別教科書検定数
  • 教科「情報」の教科書検定初年度となる2001年度には多くの出版社が参入したものの,特定の教科書に需要が集中し,改訂版や新版の投入を見送るところが増え,現在の数になった。尚,2007年度の新しい動向として,最も需要の大きい「情報A」において,実習指向のものと座学指向のものという,2種類の教科書を出した出版社が2社あった。
  • 図3 2007年度出版社別教科書採択数
  • 図3に示したように,教科書の採択は特定の出版社に集中しており,2007年度はA出版社だけで全体の39%,B出版社,C出版社,D出版社まで加えた上位4社で74%の占有率となる。  専門教科「情報」については,11科目で構成されているが,その内,教科書が発行されているものは「情報産業と社会」「情報と表現」「コンピュータデザイン」「情報システムの開発」「ネットワークシステム」「モデル化とシミュレーション」の6科目に限られている。そのすべてにおいて,A出版社のみが発行しているという状況である。筆者から見て,これらの教科書はいずれも幅広い内容がコンパクトにわかりやすくまとめられていて,なかなかよくできている。但し,初等中等教育機関においては,検定教科書が発行されている場合,必ずそれを採択しなければならないため,生徒の実情に合わせて選択できる余地がないのは問題だと考える。複数の出版社から教科書が発行されることを切に願う。

専門学科「情報科」の現状

  • 商業に商業科,工業に工業科があるように,専門「情報」には,専門学科としての「情報科」(情報課程)がある。初めて「情報科」が設置されて今年で5年目になるが,全国でその学校数は未だ20校に過ぎない。2006年度現在,商業科が793校,工業科が626校,総合学科が294校あるのに比べても,その数が如何に少ないかが分かる。
  • 従来,専門高校における情報教育は,商業課程の「情報処理科」と,工業課程の「情報技術科」が中心となって担ってきた。現在も,教科「商業」には「情報処理」「ビジネス情報」「文書デザイン」「プログラミング」など,教科「工業」には「情報技術基礎」「電子情報技術」「プログラミング技術」「ハードウェア技術」「ソフトウェア技術」「マルチメディア応用」などの情報関係科目が数多くある。これらの科目を中心に学ぶ「情報処理科」や「情報技術科」のうち,専門学科「情報科」へ移行した高校は極めて少ない。これにはさまざまな要因がある。特に情報課程との差異が際立つ工業課程の「情報技術科」と対照して以下に示す。
  • まずは,教員配当数である。工業課程の場合,実習は10人単位で行なうのが標準であり,それに見合う数の教諭に加え,実習助手も配当される。これが,情報課程となれば,教諭,実習助手ともに半数以下に減員となることが想定される。
  • 次に,大学への進学問題である。工業課程枠を設けて入学試験を実施している大学は数多くあるが,情報課程枠を設けているところを筆者は知らない。つまり,工業課程から情報課程に移行すると,生徒の進路を狭めてしまう恐れがある。
  • さらに,備品・設備予算の問題である。工業課程であれば,産業教育振興(産振)予算などの比較的潤沢な備品・設備予算が期待できる。それが情報課程では,規模的に工業課程に比して小さなものとなることが必至であり,この点においても不利である。
  • 工業科教員は特殊な例を除き,産振手当を支給されている。その額は,本給に教職調整額を加えたものの10%である。これが情報科教員となれば支給されなくなり,実質的な賃金切り下げとなる。号俸換算すると,2号俸ほど下がる見当で,現場の教員にとってはこれが一番の問題になると思われる。
  • 次に,情報課程の生徒の進路状況がどのようになっているのかを以下に示す。
  • 図4 2005年度全日制卒業生の進路
  • 図4は,2005年度のデータである。初めて情報課程の卒業生が出た年であり,完成年度を迎えた高校は7校程度で,情報課程の対象者は281人しかいない。それを考慮しても,情報課程の卒業生の進路は,工業科・商業科・総合学科と比べて,著しく進学志向であり,その傾向は普通科の平均とほとんど変わらない。このことは,情報課程のカリキュラムが,高大接続を考慮したものであるべきことを示している。

大学一般入試における教科「情報」

  • 情報関連学科を設置している大学は文系理系合わせて相当な数に上る。しかしながら,一般入試に教科「情報」を出題している大学は非常に少ない。情報関連学科を持つ大学は,「AO入試」ではなく一般入試で「情報」を受験生が選択できるように最低限すべきであると考える。理想的には,「情報」を学修する学科は一般入試で「情報」を必須として課すべきであると強く主張したい。理学部数学科で「数学」が,外国語学部英語学科で「英語」が出題されない状況など考えられない。ならば,なぜ情報関連学科で「情報」が出題されないのだろうか。大学が自己矛盾しているとしか言えないと思う。
  • 教科「情報」履修者が初めて受験した2006年度の大学一般入試において,「情報」を出題したのは14大学,2007年度入試では23大学であった。大学は全国で756大学(2007年度)あり,このすべてで情報関連学科が設置されている訳ではないものの,それにしても教科「情報」を課す大学が少な過ぎる。
  • 尤も,選択科目に「情報」を準備しても,それを選択する受験生はごくわずかであるのも事実だが,それは教科「情報」を入試で課す大学が少ないからでもあり,鶏が先か卵が先かのようなものであると考える。
  • 23大学の出題科目をみると,「情報A/B/C」の選択かまたは共通部分としているところが13大学,「情報A」が6大学,「情報B」が3大学,「情報C」が1大学となっている。全国の高校生の4分の3が「情報A」を履修している状況を考えると,大学のアドミッションポリシーとして,「情報B」や「情報C」を課したくとも,「情報A」を無視することはできない状態にある。

教員の現状

  • 教科「情報」はまったく新しい教科であるため,2003年度から指導を行なう教員を一から養成しなければならなかった。そこで,「新教科『情報』現職教員等講習会」が2000年から3年間にわたり全国で行われた。これは,「数学」「理科」「家庭」「商業」「工業」等の基礎となる免許を持つ現職教員に対して,15日間の講習を行ない,報告書の提出をもって「情報」の一種免許を付与するというものであった。この講習により,全国で約9,000人の情報科教員が養成されたことになっている。また,これにより免許を与えられた教員は,2003年度以降,元の教科から情報科へ原則として転身することになっていた。
  • しかし,講習を受けて免許を取得したにもかかわらず,本人や学校側の都合により,元教科のまま据え置かれて「情報」を担当しない教員が続出し,情報科教員の確保がままならなくなってしまった。その結果,臨時免許や免許外担任の乱発,さらには授業内容を「数学」や「公民」に差し替えるなど,望ましくない運営がなされる一因ともなった。
  • また,それまでの教育活動における情報活用事例等については一切評価の対象外であったため,情報科に勝るとも劣らない実践をしていても「英語」や「公民」などの教員は講習の対象外となったり,逆にこの講習において免許を得てもコンピュータの基本的な操作すらおぼつかない教員がいたりするなど,臨時的措置とは言え,教員養成に大きな問題があったことは明白であり,形式を取り繕ったに過ぎないとの意見も多い。
  • この臨時的措置終了後,教員養成は他教科と同様に大学の教職課程が担っている。2006年4月現在,全国の313大学480学部で教科「情報」の高等学校教諭一種免許を取得することができる。学部の内訳は文系と理系が約半数ずつで,文系では経営学部や経済学部の数が多く,法学部や文学部などでも免許が取得できる。教科「情報」の免許は普通教科のみならず,専門教科も含んでいるため,例えば,「アルゴリズム」「モデル化とシミュレーション」「コンピュータデザイン」などの科目にも教員として現実的に対応できるだけの内容がすべての大学で担保できているかは懐疑的である。
  • さらに,教科「情報」の教員採用状況は惨憺たるものである。新卒者対象の教科「情報」の2007年度採用試験は14都府県市に限られ,しかもその採用者数はそれぞれ1ないし若干名であった。しかも,茨城県,埼玉県,千葉県・千葉市,東京都,富山県,鳥取県などでは,教科「情報」以外の免許所有も受験要件となっていた。特に,千葉県・千葉市では,教科「情報」以外の教科で一次選考が行われるという状況であった。これらは,教育委員会が,他教科に比して教科「情報」を軽視しているか,または,教科「情報」の将来性に疑問を抱いていることの表出であると捉えざるを得ない。

教科「情報」をめぐる駆け引き

  • 全国高等学校長協会から,中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会宛てに「学習指導要領改訂に向けて(お願い)」という要望書が2006年9月27日付で出された。その内容は,教科「情報」の必履修や,教科そのものを否定的に見直すことを求めたものであった。
  • 一方,情報処理学会は,2005年10月に「日本の情報教育・情報処理教育に関する提言2005」,2006年2月に「2005年後半から2006年初頭にかけての事件と情報教育の関連に関するコメント」,2006年11月に「高校教科『情報』未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策」,2006年12月に「高校普通教科『情報』新・試作教科書」などを次々と提言した。また,日本情報教育開発協議会(JADIE)は,2006年12月に「高等学校教科『情報』の必履修についての請願書」を出した。さらに,日本の中核的な8つの国立大学の情報系研究科長会議の下に設置された「八大学情報科目入試検討ワーキンググループ」が,2006年5月に「情報教育に関する提言」をまとめ,高校における情報教育の充実を求めるなど,教科「情報」の重要性を訴えるものが,数多く提言されている。
  • 今まさに次期学習指導要領改訂に向けての作業が進行しており,教科「情報」に否定的な抵抗勢力と,より一層の推進を求める勢力との駆け引きが続いている。協力者会議第1次報告の中で「子供たちに真に必要な資質能力とは何かという立場から検討された時,情報教育の観点が結果としてのその柱の一つとなる可能性を我々は強く認識しており(中略)学校教育における情報教育の推進に前向きに取り組むことを期待する」と述べられている。この報告から既に10年が経過しようというのに,情報教育の充実はわれわれにとって未だ宿題となったままである。

次期学習指導要領

  • 「情報A」「情報B」「情報C」に替わり「社会と情報」と「情報の科学」(ともに仮称)が設定される。
  • 「社会と情報」では,情報が現代社会に及ぼす影響を理解させるとともに,情報機器や情報通信ネットワーク等を効果的に活用したコミュニケーション能力や情報の創造力・発信力等を養うなど,情報化の進む社会に積極的に参画することができる能力・態度を育てることに重点を置く。その内容は,情報社会への参加と個人の責任,コミュニケーションと情報の発信・収集,情報社会とメディアなどで構成される。
  • 「情報の科学」では,現代社会の基盤を構成している知識や技術を科学的な見方で理解し習得させるとともに,情報機器等を利用して合理的な判断・理解に基づいた問題解決能力や情報発信力等を養うなど,社会の情報化の進展に主体的に寄与することができる能力・態度を育てることに重点を置く。その内容は,情報通信ネットワークのしくみと情報システムの利用,情報社会を支える情報技術,問題解決における情報の活用などで構成される。
  • この「社会と情報」と「情報の科学」を学校ではなく生徒に選択させることは,高等学校の諸事情を勘案すると,やはり難しいと考える。強いて2科目とも置かれるとすれば,それは1年次ではなく,2年次か3年次に設置し,文系は「社会と情報」,理系は「情報の科学」を自動的に選択するという形しかないだろう。今回の科目設定は,この形を加速させ,「情報」の1年次開設を減少させるのではないかと推測する。
  • 専門教科「情報」については,次のようになっている。
  • 改善の視点として,情報技術の進展による新たな情報産業の創出等,情報産業の構造の変化や,情報産業が求める人材の多様化,細分化,高度化に対応し,創造力,考察力,問題解決力,統合力,職業倫理等を身に付けた人材を育成する観点から,科目の新設,関連科目の整理統合,内容の見直しについて検討する。
  • 改善の具体的事項として
    • 教科の目標
      • 教科の目標については,情報産業の構造の変化や情報産業が求める人材の多様化,細分化,高度化に対応する観点から,情報の各分野における応用的・発展的な知識・技術や職業倫理等を身につけた人材を育成するという趣旨を明確にする。
    • 科目構成
      • 上記の改善の視点に立ち,科目の新設,名称変更等を行い,現行の11科目を13科目とする。
      • 情報産業と社会,課題研究,情報の表現と管理,マイニングとソリューション(仮称),情報テクノロジー(仮称),アルゴリズムとプログラム,ネットワークシステム,データベース,情報システムの開発,情報デザイン,情報メディア,メディアの編集と表現,情報コンテンツの開発
      • 新設する科目について
      • 「マイニングとソリューション(仮称)」高度情報人材に求められる,問題の発見力・解決力や自立した行動力をはぐくむことをねらいとする。
      • 「情報テクノロジー(仮称)」高度情報人材に求められる,情報技術の理論と技術の習得をねらいとする。
      • 「データベース」システム設計・管理分野を担う高度情報人材に求められる,データベースにかかわる知識や技術の習得をねらいとする。
      • 「情報メディア」コンテンツの制作・発信分野を担う高度情報人材に求められる,様々なメディアの特性の理解と処理技術の習得をねらいとする。
      • 整理統合する科目について
      • 「メディアの編集と表現」コンテンツの制作・発信分野を担う高度情報人材に求められる,情報メディアの編集と表現に関わる理論と技術の習得をねらいとし,「図形と画像の処理」と「マルチメディア表現」とを整理統合する。
      • 名称変更する科目について
      • 「情報の表現と管理」高度情報人材の基礎的な能力である,情報の表現力と管理力をはぐくむことに重点を置くこととし,「情報と表現」を名称変更し「情報の表現と管理」とする。
      • 「アルゴリズムとプログラム」システム設計・管理分野を担う高度情報人材に求められる,アルゴリズムにかわる知識や技術の習得に重点を置くこととし,「アルゴリズム」を名称変更し「アルゴリズムとプログラム」とする。
      • 「情報デザイン」コンテンツの制作・発信分野を担う高度情報人材に求められる,情報デザインに係わる理論や技術の習得に重点を置くこととし,「コンピュータデザイン」を名称変更し「情報デザイン」とする。
      • 「情報コンテンツの開発」コンテンツの制作・発信分野を担う高度情報人材に求められる,様々なメディアと各種ソフトウェアを活用するとともに,知的財産に配慮しつつコンテンツを開発,発信できる能力や態度をはぐくむことに重点を置くこととし,「マルチメディア表現」を名称変更し「情報コンテンツの開発」とする。
  • 学習指導要領の方向性から,初等中等教育における情報教育体系は次のような流れとなる。
    • 小学校で,情報の収集・整理・発信まで含んだ「コンピュータ・リテラシー」と「情報モラル」
    • 中学校で,技術のものづくりを中核として「マルチメディアの活用」と「プログラミングと計測・制御」
    • 高等学校で,情報科学や情報社会学を基盤とした「問題解決能力」
  • こうなると,どの発達段階で何をやるべきかがずいぶん明快になり,高等教育への接続も改善されることが期待できる。

まとめ

  • 教科「情報」の内容と現状について,簡潔に整理し,現状ではさまざまな問題を孕んでいることを明らかにした。教科「情報」に限らず,「教育」の計画や評価は,性急に行なってはならない。例えば,教員に関する問題1つ取り上げても,即効性のある対策は現実的には難しく,時間をかけてじっくり改善を図っていくべき類のものである。そうであるにも関わらず,現状のみを近視眼的にとらえてこれを否定する動きが現在の教育現場を取り巻く環境に非常に多いことを憂慮している。

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Last-modified: 2008-01-05 (土) 17:13:38 (3630d)